【キムラケンジの3時のごはん】第1食「とりあえず枝豆で」
居酒屋に行ったときに言われる言葉で一番多いのは、「とりあえず生(ビール)で!」であることは間違いないが、それに付随して、「あ、とりえず枝豆も」という言葉も言われがちである。
「とりあえず枝豆」って言ったことある人、手をあげて!
ビールと枝豆の相性は良く、非常に理にかなったコンビであるということは知られているが、よくよく考えてみるとこの言葉、なかなかどうしてひどいものだと思う。
とりあえず、である。
この「とりあえず」という表現、言葉としてはネガティブな部類に入るだろう。意味合いとしては「仕方がないから」とか「暫定的に」というタイミングで使われることが多い。
「とりあえず枝豆」を正しく言うと「ゆくゆくはちゃんとした料理を注文しますから! でも、今はその問題に取り組む時間はないので、仕方がないから枝豆を頼みますか!」という感じだろうか。枝豆の気持ちになってみたらこれはひどい。我々は小さなころから「自分が言われて嫌なことは人に言ってはいけません」と育てられたはずだ。もし、自分が「とりあえず」扱いされたらどういう気持ちになるだろうか。
たとえば職場で、「この仕事、とりあえず君にまかせるかあ」と言われたらどう思うか。たとえば部活で、「とりあえずお前、出てよ。とりあえず」と言われたらどう思うか。たとえばプロポーズで、「うーん。とりあえずキミと結婚しようかな」と言われたらどう思うか。
どれもひどく傷つくし、いい思いはしないだろう。
そんな辛らつな言葉を、我々日本人は、枝豆に対して軽々しく言っていたのだ。それでも枝豆は健気に、時には「とりあえず枝豆で」と言われる前に、自らお通しとして登場したりと、日本中の居酒屋を陰から支えているのである。
とりあえず、「とりあえず」の真相に迫ってみた。
ただ一方で、日本人の枝豆に対する信頼感はすさまじいこともまた事実だ。もし、居酒屋のメニューに枝豆がなかったとしたら、いとも簡単に暴動が起きてしまうだろう。そこで、今一度「とりあえず」という言葉について実際に辞書で調べてみると
ほかのことはさしおいて、まず第一に。なにはさておき。(小学館 大辞泉より)
という意味が書かれていた。そう考えてみると「とりあえず枝豆」は「なにはさておき、まず第一に枝豆だ!」という意味ともとれる。いや、日本人の枝豆に対する愛を考えたら、こちらの方が正しい意味なのではないか。
そう考えると「とりあえず枝豆で!」という言葉は、惰性や仕方がなく言っているわけではなく、「おれたちは! まずは枝豆でなければダメなのだ! うわあああ!」という強い意思が感じられなくもないのだった。
【レシピ】何よりもまず!と言わせてみせよう枝豆マヨキムチ和え
材料(1人分)
- 枝豆(冷凍)…100g
- キムチ…50g
- マヨネーズ…大さじ1
- 大葉(細切り)…1枚
- かつお節…適量
作り方
①解凍した枝豆を鞘から取り出し、刻んだキムチ、マヨネーズと和える。器に盛りつけて大葉とかつお節を散らす。
コラム、レシピ:キムラケンジ
イラスト:まつざきしおり