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【キムラケンジの3時のごはん】第3食「納豆を火にかけるか否か」

古来より日本の食卓で愛され続けている納豆は、その栄養価や人気もあいまってまさに「国民食」といっても差支えないだろう。その独特のにおいを苦手とする人もいると思うが、周りの声を聞いても圧倒的に納豆好きが多いように感じる。

もちろん、私も納豆好きで、冷蔵庫から切らすことはまずない。スタンダードに白いごはんにのせたり、生卵や温泉卵と混ぜたり、イカやマグロとあわせておつまみにしたりと、活躍の幅は広い。

納豆……清純派か妖艶派か、それが問題だ

そんな中でも私がお気に入りなのは、「ごはんと炒めて納豆チャーハンにする」という食べ方だ。いつもの食べ方もいいが、火が通った納豆は普段とは違う表情を見せる。冷蔵庫から出したばかりのひんやりとした納豆が清純系のさわやかな女性だとしたら、熱の入った納豆はさながら、情熱的で妖艶な女性とでもいったところであろうか。

いつもは元気いっぱいにネバネバとしているのに、ひとたび炒めると「どうしたのボウヤ」とでも言わんばかりの、なんとも色っぽい食感に変わるのだ。納豆が普段見せないような表情──いわゆる「夜の顔」を見せられた私は、いつもドギマギしてしまう。

しかし、そうなってくるとひとつ問題が発生する。納豆に含まれる「ナットウキナーゼ」と呼ばれる栄養素は熱に弱く、加熱調理をすると失われてしまうのだ。ナットウキナーゼには血栓溶解能があると報告されており、栄養素自体に「ナットウ」と付けられていることからも、納豆の栄養素の中でも重要なポジションを占めていることは明白である。

ただ、私はナットウキナーゼを失ってでも、火を通してチャーハンにしたいと思っている。もちろん、普段のひんやりとした納豆も好きだし、それに不満があるわけではない。ただ、私はあの時私に見せてくれた妖艶な姿が忘れられないのだ。この感情を理屈で説明するのは難しい。なぜならそう、この気持ちは恋に似た熱病に近いものだから。

そうは言っても私もそろそろ30代半ばを迎え、まもなく中年に差し掛かろうという年齢になっている。食事は健康を気遣うようになっているし、ナットウキナーゼのような優秀な栄養素を失うことは出来るだけ避けたい。

そんな時、こんな話を聞いた。「ナットウキナーゼは50℃程度だと失われない」と。たしかに、ホカホカのごはんにかけても大丈夫ということは、加熱さえしなければある程度は大丈夫ということになる。

そこで私は考えた。先にチャーハンを作って、そこに混ぜればいいのではないかと。確かにそれでは、納豆に火を通した時に顔を出すあの妖艶さはないかもしれない。しかし、いつまでも過去に引きずられてはいけないこともわかっている。

意を決して、私は新しい方法の納豆チャーハンを作った。先にチャーハンを炒め、粗熱が取れたところで納豆を加える。そう、すべてはナットウキナーゼのために。

出来上がったチャーハンは、今まで作っていたものとそう見た目は変わらない。しかし、そこにはしっかりとナットウキナーゼが存在しているはずだった。もちろん、炒めてはいないため、あの妖艶な表情は見せてくれないだろう。それでもいい、それはもうあきめた。私は色気よりも栄養素──そう、ナットウキナーゼを選んだのだ。そして、ひとくち食べた私はこう思った。

これはこれでいいじゃないかと。

炒めていない納豆チャーハンの風味はさながら、「酸いも甘いも知る大人の女性」のようで、ひんやりとした納豆にも、炒めた納豆にもない、新たな顔を見せてくれたのだ。

私は納豆との新しい出会いに心を震わせる一方、結局は納豆だったら何でもいいんじゃないかという、なんとも節操のない自分の気持ちに気付いてしまった。ただある意味、それは究極の納豆愛でもあるというのは間違いない。

(終)

【レシピ】ナットウキナーゼを失っていない「野沢菜納豆チャーハン」

材料(1人分)

  • ごはん…1人前
  • 納豆…1パック
  • 野沢菜漬け…30g
  • 生卵…1個
  • サラダ油…大さじ1
  • 塩、こしょう…少々
  • 白ごま…少々

作り方

  1. サラダ油半量を強火で熱したフライパンで、ごはんと刻んだ野沢菜漬けを炒める。
  2. 別のフライパンで残りのサラダ油を中火で熱して、半熟の炒り卵を作る。
  3. 1の粗熱がとれてきたら、2と付属のしょうゆを混ぜた納豆を加えて全体を混ぜる。塩、こしょうで味を調えて白ごまを散らす。

 

【結論】

結局、炒めても炒めなくても、納豆はおいしい。


コラム、レシピ:キムラケンジ

イラスト:まつざきしおり

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