【キムラケンジの3時のごはん】第2食「目玉焼きには何をかけるか」
日本人であればおそらくほぼすべての人が食べたことがあるだろうという料理のひとつに、目玉焼きがあげられる。生卵を鉄板で焼くだけというシンプルな調理法ながら、様々なシーンで活躍できるため、日本の食卓には欠かせない存在となっている。
そして、この目玉焼き、何をかけて食べるかという論争は過去から現在まで続いており、その答えは未だに出ていない。圧倒的な支持を受けている醤油に続き、塩こしょうが続くといったところだろうか。個々人の嗜好もあいまって、この議論は永遠に答えが出ないと思われる。
かくいう私の目玉焼き遍歴を思い返してみると、かなり優柔不断というか、様々な調味料に目移りする尻軽な男だということがわかる。
たとえば物心ついたときは醤油一辺倒だったが、中学生になると「塩こしょうを振るのがクールなんだ」という兄に影響されて塩こしょうを振るのが定番となっていた。これは十代の間変わることなく、私の青春時代を支えたといっても過言ではない。
しかし、その牙城を崩した者がいた。そう、ケチャップである。
あるとき私はこう思った。「オムレツやオムライスに合うんだから、目玉焼きに合わないはずがない」と。試してみるとまさに思った通りだった。
それからというものの、私は目玉焼きにケチャップをかけ続けた。「醤油や塩こしょうしか知らない周りのやつらとは違うんだぜ」という、多少の驕りや優越感があったのも事実だ。白身と黄身、そこに情熱の赤色が加わることにより彩りは豊かになり、食卓はさながら豪奢な舞踏会のように華やぐことになった。
だからといって現状に甘んじることはしなかった。大人になったいま、変化を恐れるのではなく、常に新しいものを求めたい──。そうして見つけた次なるターゲット、それがウスターソースだった。
西日本では絶大な支持を誇るウスターソースだが、東日本で生まれ育った私にはあまり馴染みがなかった。しかしかけてみると、驚くべき相性の良さで、私はこの数十年間なにをしていたんだと後悔してしまった。
こうして私は、ひとつの調味料に縛られることのない目玉焼き生活を送ってきた。不動の一番人気を誇る醤油は確かに美味しい。だがそれ一辺倒になるのは浅はかなのではないか。もっと可能性はあるはずなのに。
様々な調味料を目玉焼きにかけて過ごしてきた経験はかけがえのないものであり、目玉焼きの可能性をひとつに閉じなかったのは、我が人生の誇りでもある。
そんな私だが、もし今日が人生最後の日で、目玉焼きに何をかけて食べるかと聞かれたら、必ずこう答える。
醤油に決まってるだろうと。
浅はかと言われようが、それが揺るぎない私の答えである。結局、目玉焼きには醤油が一番だ。
【レシピ】とはいえ醤油も塩こしょうもケチャップもウスターソースも全部楽しみたい 「チキン目玉焼きライス」
材料(1人分)
- ごはん…茶碗1杯分
- 鶏もも肉(ひと口大)…50g
- 生卵…1個
- 水…大さじ1
- サラダ油…小さじ2
- 醤油…少々
- 塩こしょう…少々
- ケチャップ…小さじ1
- ウスターソース…小さじ1
作り方
①サラダ油半量を中火で熱したフライパンで鶏もも肉に火が通るまで炒めて、塩こしょうを振る。ケチャップとソース、ごはんを加えて全体がからまるまでさらに炒める。
②別のフライパンでサラダ半量を中火で熱して生卵を落とし、周りの白身が固まってきたら水を回し入れて、水分が飛ぶまで火にかける。器に①と一緒に盛り付けて醤油をたらす。
【ひと言】結果、やはり目玉焼きには醤油をかけるけどね。
コラム、レシピ:キムラケンジ
イラスト:まつざきしおり